なぜ人はうそをつかなければならないのか。その一つの答え − 『神様がうそをつく』/尾崎かおり

注意:下記ネタバレを含みます。 

転校してきた小学生、なつるは将来サッカー選手になることを夢見ている元気な男の子です。いっぽう理生はクラスの中でのけ者にされ、しかも不遇な家庭環境にあります。

 大好きだったサッカーのコーチが病気により入院し、あたらしいコーチとはウマがあわないため、サッカーの練習も気が乗らなくなります。ふとしたことからなつるは理生の家に招かれ理生の手料理を食べ、そこから、ふたりの中はぐっと縮まります。なつるは理生が抱えている誰にも言えない苦しみを知り、彼女を守ることを決意します。なつるの決意は周囲に見える訳もなく、ついには二人は家出をしていまいます。理生は、星のように輝いて見えたなつるが自分の家族のようになってくれることに素直に感謝します。でも、そんな逃避行は続く訳もなく、二人は見つけ出され、ついに理生が抱えている秘密も世間に知られることとなります。二人がともに生きてゆく道はありませんでした。

 自分の秘密を言えないまま苦しむ理生、理生を守ることを決意しつつもその理由を言えないなつる。生きるためにふたりはうそをつき通します。でも、気付けば、周りの人もみんなやさしいうそをついています。神様ですら、その人を愛するが故にうそをつくのです。

 Sunshine Cleaningという映画のエンディングに近いシーンで、父親は家を売り娘にクリーニングのお店を始めるための車をプレゼントします。その車には、「Since 1963」(創業1963年)とペイントされているのを娘は見つけ、「あれはうそじゃないか」と父をとがめます。父親は「It's a business lie. Different from a life lie.(仕事上のうそであって、人生のうそとは違うんだ)」といいます。娘は笑って、「まあいいわ」と言います。僕はこのシーンがとても好きでした。

 愛する者を守るためにうそをつく。自分のすべてを失っても、愛する者のために、ひとはうそをつくのです。

神様がうそをつく。 (アフタヌーンコミックス)

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